福岡高等裁判所 昭和59年(ネ)355号 判決 1986年9月30日
控訴人
宗教法人大観宮
右代表者代表役員
内村文伴
右訴訟代理人弁護士
浅見敏夫
同
中村尚彦
破産者天下一家の会・第一相互経済研究所こと
内村健一破産管財人
被控訴人
福田政雄
同
下光軍二
同
稲村五男
右下光、稲村訴訟代理人弁護士
福田政雄
被控訴人ら補助参加人
平松重雄
右訴訟代理人弁護士
丸山英敏
同
横田保典
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用(参加費用を含む)は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決中、控訴人の敗訴部分を取消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
次に付加するほかは原判決事実摘示(ただし、原判決添付別紙目録の一部を別紙のとおり変更する。)のとおりであるからこれを引用する。
(控訴人の主張)
原判決添付別紙不動産目録第一〇記載の各不動産は、控訴人大観宮の境内地と地続きであり、「平和道場」と呼ばれ、大観宮に参拝する信徒の宿泊施設や、信徒の教化、育成の場所であつて、大観宮の重要な施設として利用されていたものであり、大観宮の存立に欠かせない施設である。そして国際平和祈念会館(以下単に「祈念会館」という。)は大観宮と一体をなすものとして右平和道場の敷地内に建築されたものである。従つてこれらはその使用目的からみて当初から控訴人への寄付が予定されていたものである。そこで第一相互経済研究所(以下単に「第一相研」という。)では、昭和四八年一二月四日開催の理事監事合同会議において右平和道場の不動産を控訴人に所有権移転登記手続をすることが議題となり、検討が加えられていたものである。従つて、右各不動産、右祈念会館の契約上の地位及びその請負残代金一二億円の寄付は、当初から予定されていたものであつて、いわゆる長野判決とか会員の入会金返還請求とは、全く無縁のことである。
(控訴人の主張に対する被控訴人らの答弁)
平和道場の各不動産(原判決添付別紙不動産目録第一〇記載の各不動産)が控訴人大観宮の境内地と地続きであること、信徒の宿泊施設等として利用されていたこと、祈念会館が右平和道場の敷地内に建築されたこと、第一相研の昭和四八年一二月四日付理事監事合同会議議事録によれば右平和道場の不動産を控訴人に所有権移転登記手続をすることが議題となつた旨の記載があること、は認めるが、その余は争う。
(控訴人の予備的相殺の主張)
仮に、被控訴人ら主張の金銭債権があるとしても、控訴人は破産者に対し昭和五五年一一月七日現在貸付残元金六億六四七五万円とこれに対する年五分の割合による約定利息金七八九四万〇八四六円の合計七億四三六九万〇八四六円の債権を有しているから、控訴人は被控訴人らに対して昭和五九年九月一六日付書面で、右貸金債権をもつて、被控訴人らの前記金銭債権とその対当額で相殺する旨の意思表示をし、右書面は同月一八日被控訴人らに到達した。
控訴人の破産者に対する右債権については、控訴人は昭和五五年一一月八日破産債権として被控訴人らに対し債権届出をしていたが、被控訴人らから全額異議があつたので、昭和五九年六月九日被控訴人らを相手に熊本地方裁判所に破産債権確定訴訟を提起し、現在審理中である。
(控訴人の予備的主張に対する被控訴人らの答弁及び主張)
1 控訴人の相殺の主張のうち、控訴人の破産者に対する貸金債権の存在は否認し、その余の事実は認める。
2 破産者の主宰する第一相研、天下一家の会と控訴人とは、経済的基盤はいずれも第一相研のいわゆるネズミ講の入会金で賄われており、経済的には一つという関係にある。従つて、本件債権と称するものも、たんに一時、第一相研に必要な金銭の不足を補うため、一応控訴人から立替払いした形をとつたものにすぎない。そもそも控訴人名義の金銭は第一相研から移したものであるから、破産者としては、いわば控訴人に預けていたものを取り返したに過ぎないものである。そこには債権債務の観念は全く存しない。
3 控訴人主張の貸金債権は、破産者が昭和五三年五月三一日五億六〇〇〇万円、同年一一月六日六三〇〇万円をそれぞれ控訴人から借り受けたというものである。しかし、第一相研こと破産者は、同年三月三一日控訴人に一六億円を寄付し、同年一〇月二七日には、いわゆるネズミ講禁止立法が成立し、今後使用する見込みもないのに、ネズミ講関係の書籍を一括して二億一七四八万七八〇〇円で控訴人から購入する無駄使いをしている。すなわち、控訴人に一六億円を寄付した二か月後に控訴人から五億六〇〇〇万円を借り入れ、二億円余の無駄使いで控訴人に儲けさせてやつた後に控訴人から六三〇〇万円を借入れたことになるが、このような状況下の借入れは到底まともな消費貸借とは認められない。これは、その実、第一相研の資産状況をわざと悪化させ、控訴人へ財産、債権を残す狙いで、第一相研と控訴人との間で通謀して(当時控訴人の代表者も内村健一であつた)なされた仮装行為である。
4 仮に、債権債務と考えるとしても、それは自然債務とみるべきもので、期限が来たら返済するという考えは全くなかつたものである。その後においても、第一相研から控訴人に対して寄付金は続いて送られているから、真の債権債務であればその際に清算できたはずである。
5 また、五億六〇〇〇万円については、期限は行政訴訟の結果税金が返つてくるまでとなつていたものであるところ、右訴訟はまだ確定していないから未だ期限が到来していない。
6 昭和五二年一〇月一日から昭和五三年三月三一日までの間、第一相研が立替負担してきた研修保養所人件費を含む所要経費合計二億八二一五万二一七一円から右期間中の宿泊料等収入八五七四万七五〇六円を差し引いた一億九六四〇万四六六五円を控訴人に対して求償する請求権を有するから、昭和六一年四月二五日本件口頭弁論期日において、被控訴人らは控訴人に対し、右債権を自働債権として控訴人主張の貸金債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(被控訴人らの主張に対する控訴人の答弁)
いずれも争う。
第三 証拠関係<省略>
理由
一当裁判所も被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は原判決の認容した限度で正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次に訂正、付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。当審において取り調べた各証拠は次に判示するほかは、いずれも原判決の認定、判断をなんら左右するものではない。
二1 原判決一一枚目裏二行目にある「同五号証」を削除し、同四行目の「を認め得る」の次に「同五号証」を挿入し、同七行目にある「同前田弘」を削除し、同八行目「(一部)」の次に「、原審及び当審証人前田弘」を挿入する。
2 同一六枚目表三行目から四行目にかけ「証人内村健一の証言」とあるを「原審証人内村健一、当審証人櫻木岩夫の各証言」と改める。
3 同二二枚目裏八行目及び同二三枚目表四行目に各「証人内村健一」とあるを各「原審証人内村健一、当審証人櫻木岩夫」と改める。
4 同二三枚目裏七行目に続けて「そして破産債権者を害する結果の発生を認識している場合は、特別の事情のない限り加害の意図があつたものと推認するのが相当であり、本件全証拠によつても右推認を覆すに足る特別の事情を認めることはできない。」を加える。
5 同二五枚目表四行目に「被告」とあるを「本件寄付当時控訴人の代表者であつた内村健一」と改める。
6 同二六枚目表三行目から四行目にかけ「これに対する年五分の割合による」とあるを削る。
三控訴人の平和道場及び祈念会館に関する主張について。
平和道場の不動産が、控訴人大観宮の境内地と地続きに存在し、信徒の宿泊施設等として利用されていたこと、祈念会館が右平和道場の敷地内に建築されたこと、第一相研の昭和四八年一二月四日付理事監事合同会議議事録によれば右平和道場の不動産を控訴人に所有権移転登記手続をすることが議題となつた旨の記載があることは、当事者間に争いがない。そして当審証人櫻木岩夫の証言中には、右控訴人の主張に沿う供述部分がある。
しかし、右議事録(原本の存在成立ともに争いのない乙第八号証)によれば、右平和道場の不動産を控訴人に所有権移転登記することが議題となつたが、これを議決するまでに至らず、次回の会員総会に諮ることにし、その間に事務局において検討する、とされていたことが認められるが、本件全証拠によつても、その後本件寄付に至るまで、この件について総会または理事会等で議題とされた形跡が全く認められず(このことは事務局等で検討した結果控訴人に所有権移転登記しないことになつたとも推測できる。)、むしろ原本の存在成立ともに争いのない甲第四五号証、当審証人前田弘の証言によれば、前記理事監事合同会議後の昭和四九年一月一一日に右不動産の一部である祈念会館の敷地(原判決添付別紙不動産目録第一〇の六、七記載の土地)を買い受けるについては、さしたる理由もないのに、その登記を控訴人名義ではなく、内村健一名義で所有権移転登記していることが認められ、当時からこれらの不動産を控訴人に所有権移転登記することを予定していたとは到底考えられない。よつて前記櫻木証言は措信できず、他に控訴人の右主張事実を認めるに足る証拠はない。
四控訴人の予備的相殺の主張について。
弁論の全趣旨によれば、控訴人主張の自働債権である貸金債権については、右相殺の意思表示をする以前に、その請求訴訟を熊本地方裁判所に提起し、それが現在なお係属中であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
一般に、相殺の抗弁で主張した自働債権の存否につき判決で判断されたときは、相殺をもつて対抗した額につき既判力を生ずる(民訴法一九九条二項)。したがって、ある債権に基づいて請求訴訟を提起し、その係属中に、他の訴訟においてその同一債権をもつて相殺を主張することは、結局同一債権について既判力を生ずる二個の裁判を求めることになるから、民訴法二三一条の類推適用により許されないものと解するのが相当である。よつて控訴人の右相殺の主張はその余の点を判断するまでもなく、不適法として採用できない。
五よつて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、九四条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官新海順次 裁判官山口茂一 裁判官綱脇和久)
別紙 (省略)